「恋愛なんて、もう、しない」
 あの日、彼女はそう言って泣いた。

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「思春期青春あわせて真っ盛りの高校生がね、それじゃぁ駄目だと思うのよ! どうよ!?」
「どうよ!? とか言われてもなぁ。っていうか、そのネタを俺にふってくるお前の神経が俺にしてみればどうよ? って感じだぞ」
「じゃぁ誰に言えばいいのよ?」
 三本目の缶ビールをぐいっとあおりながら円は言う。
「いや、まぁそうだけどさ」
 っていうかそれ俺の金で買ったはずなんだけどなぁと、景気よく酒を摂取する円へ、直純はぼそりと呟いた。
「っていうか、そっか……、別れたんだ、あの二人」
「慰めてチャンスを物にしたら?」
 ふんっと鼻で笑いながら円は言う。
「お前、本当に身もふたも無いなぁ」
「アンタは隠しすぎるからいつまでたっても恋が成就しないのよ。いい加減気付け」
 言われて軽く肩をすくめる。慰めてチャンスをものにできるような人間では、あいにくなかった。
「お前はどうなんだよ? ほら、この間合コンで意気投合したっていう……」
「ああ、あれ? あれは駄目だった。甲斐性ないし、頼りないし。極めつけ、聞いて驚け。この間グループデートで遊園地に行ってお化け屋敷に入りました。そいつったら恐怖で顔を歪ませて、私にしがみついてくるのよ? いい年した男の癖に」
「ああ、それは……、色々とだめだなぁ」
 人ではないものを相手にすることを生業にしている家柄の本家の人間は頷きながら呟いた。
「でしょー? お化け屋敷でぴーぴーなかれたんじゃやってらんないわよー」
「特におまえは、次期宗主だからなぁ」
「私は嫌だって言ったのよ?」
 ぶつぶつ言いながら四本目へ手を伸ばしかけた円をさりげなく直純はさえぎって、
「お前、そろそろ帰れよ。沙耶が心配するんじゃなのか?」
「む、それもそうね。……っていうか、今はあの子の方が心配だけど」
「……元気ない?」
「いつも通りって言えばいつも通りなんだけどねぇ。アンニュイでこの世の全てが嫌いです、みたいな小憎らしいあの態度はいつも通り。でも、どっかやっぱりへこんでるみたい」
 ご馳走様、と言って立ち上がりながら円は続ける。
「チャンスを云々はさておいて、今度一回様子見てあげて。口ではなんだかんだいいながら、一度落ち込むとなかなか立ち上がれない子だから心配」
「わかった」
 それじゃぁね、と手を振りながら円は出て行った。アルコールをまったく感じさせないしっかりとした足取り。もっとも彼女の場合、素面でも酔っているのではないか?と思わせる言動をとるが。
 飲むだけ飲んで去っていった従姉を見送りながら、直純はため息をついた。

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「恋愛ごとなんて馬鹿馬鹿しいさ」
 後日、彼女に思いを寄せている彼は、真顔でそう言い切った。


 更にその後、自分から自分の感情を否定させるようなことを言って落ち込む彼に、追い討ちをかける従姉が居たことは、

 言うまでも無い。