暗がりと指先

 暗いとまるで自分が闇に同化したみたいじゃない?

 そういって彼女は少し悲しそうに笑った。
 確かに、そのころの夜は今よりも闇が大きかった。

 指先までもが闇に溶け込んで、自分の存在が希薄なる、そんな感じしない?

 あいにく、闇の眷族で夜目の利く彼にはそんな感覚はわからなかった。
 だから、代わりにこう言った。

 こうやって、手を繋いでいれば。

 そういって彼女の指先を自分の指先に絡ませる。
 そういって笑ってみせる。
 なんでもいい。とにかく彼女に笑っていて欲しかった。悲しそうな顔は見たくなかった。
 例え、どんな暗闇の中でも彼には彼女が悲しそうな顔をしていることがわかってしまった。だから。
 彼女はそんな彼の気持ちを察したのか、笑った。
 今度は、綺麗な笑顔。

 それじゃぁ、暗闇の中では隆二が私を案内してね。

 そう言って笑った。彼は頷いた。指先に力を入れた。
 温かい指先を求めて安堵しているのは、きっと自分だと思った。



 それは、今はもうない感覚。
 闇の中でも明かりの下と同じくらいよく見える自分の手に、絡まっている指先は、もうない。
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