向かい合って座ったホーセイの事務所のテーブルで、私は温かい紅茶を飲みながら今日の疑問を口にした。
「皆、そんなに成績に対して不満を持っているのかしら? 今日、成績の異議申し立てだったのだけど、教務課に長蛇の列が出来てた」
「下手な鉄砲も数打ちゃあたる、ってやつじゃねーの? 俺の友人にもいたよ、そういう奴」
 向かいの席でアイスコーヒーを飲みながら、ホーセイが答える。
「そういうもの? まったく授業で顔を見なかった子が、並んでいるのにはびっくりしたんだけど……。成績重視の授業で欠席ばかりしいてたのに異議申し立てなんておかしいわよね?」
「スィは? ないわけ、異議?」
「別に、異議を申し立てる点ないし。思っていた以上に良かったわ。ジェンダーと法が正直危ないと思っていたのだけれど、Bとれていたし」
「まぁ、スィだもんな」
 そういってホーセイは何故か誇らしげに笑った。何も貴方がそんな顔をすることもないでしょうに。そうは思ったものの、その表情が私を誉めてくれているようでとても嬉しくて、私も微笑み返した。
「まぁ、明確な根拠の無い異議は裁判長によって却下されるに決まっているんだ。法学部生ならそれぐらいわかっていて然るべきなんだがな」
「まったくね」

 ピーンポーン
「あ、お客さん」
 チャイムの音に、私は慌てて立ち上がり、ちらりと鏡を見て身だしなみを確認すると、小走りに玄関に向かった。
 後ろではホーセイが、二人分のグラスとカップを流しへ運び、もっともらしく椅子に座った。彼が今までずっと仕事をしていたかのように装うのを確認すると、私はドアをあけた。
「お待たせいたしました」
 そういって営業スマイルを浮かべた。