いつだってきっかけは些細なことで、他人から見たらそれは本当に些末にしか過ぎない。けれども、当事者達にはかなり重大な点なのだ(少なくとも、そのケンカの最中は) ケンカなんていうのもおこがましいぐらいのやりとりで、大抵は少ししたらどちらかが(9割方俺が)折れることで終わることになる。 どうせ、和解するとわかっているのに、まるで儀式のように懲りずに揉め事を起こすのは、違う人間同士が(人間ではないが)一緒に暮らす(暮らす?)上で避けられないのだろう。茜にだってよく怒られていたし。 誰にだって(人間にも幽霊にも不死者にも)譲れないものというのがあって、自分が他人との間に引いた線の中に踏み込まれたときに、とても不愉快だと感じる。 それは本当に些細なことで、例えば雨の日の過ごし方だったり(雨の日にわざわざ外に出ようとするなんて頭がおかしいんじゃないか?)夕飯の時間だったり(誰が用意すると思っているんだ?)バイトのことだったり(バイトしないと家を追い出されるんだし、かまえないからて拗ねるな!)、そういうこと。 毎回毎回、そういうことでケンカする。 あとは、昔の話とか……。あいつは、それが一番嫌いで、俺だって出来たらしたくない。それでも、時々それが火種になるんだけども。 今回は、俺が寝ているマオに黙って珈琲を買いに行ったからで、マオは拗ねて不貞寝している。 まぁ、今回は俺の非でもあるし、いつも折れるのは俺なんだから。 「マオ、ごめんな」 近寄って頭を撫でる。ちょっとだけ、マオが身じろぎした。 「ほら、機嫌直せよ」 『いっつも隆二はそうだもん。いっつも、そういうけど一ヶ月に一回はおなじことするんだもん。ボケてきてるんじゃないの?』 ……まぁ確かに。 この、俺がマオを置いて出かけるというのは、ケンカの理由の上位に入っている。 「う……、ごめん」 『……ふん』 思わずたじろぐと、マオが鼻をならした。うつぶせになっていた顔を半分だけこちらに向けて、 『隆二の唐変木』 「ごめんって」 『いいよ、もう。どーせ、隆二だもん』 そういって、再び顔を枕に押し付けるけど、ちょっと笑っていたからこれでもう大丈夫。 儀式のような、いつもの夜の出来事。 |
up date=2004 |
. |