「不思議なのはね」
 と、茗は告げた。
「ん?」
 朝の情報番組の特集、「嫁姑バトル」なんていうテロップをみながら慎吾は適当に言葉を返す。
「どうして、少子化が叫ばれる昨今においてこういう結婚を忌避するような情報を流すのかしらね?」
「自分はこうならないと思ってるからジャン? そんな姑いねぇよ! ってつっこんだりしてさ」
「でも現にこうして悩んでいる人はいる。わかっていて自分は違うと思って結婚する。リスキーよね」
「まったくだ」
 二人一緒に珈琲を飲む。
「うん、美味しい」
「それはどうも」
 茗の呟きに慎吾は微笑む。
「まぁ、赤の他人が一緒に暮らすなんて無理なんだよ、最初から」
「そうよねー。あらあら、離婚しちゃったこの人達」
「ホントだ」
 ブラウン管の向こう側で、通帳も家財道具も子どももとっていった元夫に詰め寄る元妻。姑が「貴女じゃ経済力がなくて育てられないでしょ」なんて告げている。
「ばかよねー。自分の息子の浮気が原因で離婚してるんだから、嫁に慰謝料払ったっておかしくないのに。っていうか、夫婦の共同財産なんだから財産分与を申し立てられたらどうするのかしら?」
「でもまぁ、この旦那甲斐性なさそうだしなぁ。……どちらにしても、養育費は払って然るべきだから、経済力がなくて育てられないっていうのは論点として間違ってるよな」
「そうよねー、っていうか、こういうの相談してくれればこっちだって答えるのに」
 と、弁護士。
「親権は子どもが小さい時は大抵は母親にいくものなのよ」
「知ってるよ。常識だろ?」
 と、その弁護士の恋人。
「そうよねー、常識よねー」
 そして二人でテーブルの上の小さなチョコレートをつまんだ。
「ああでも本当謎。どうしてみんな結婚なんてするのかしらね? そんなリスクの高いこと、よく踏み切る気になるわ」
「まったくだな。浮気調査とかしてると泣きたくなってくるよ、たまに」
 と、探偵。
「わかるわかる。離婚裁判とかやってらんないわよ」
 と、その探偵の恋人。
 そして、二人でため息。
「ところで、茗ちゃん。お互いに親族に気を使わなくてもいい立場としての提案なんだけど、結婚しない?」
 テレビの「私の姑は鬼でした」という声をBGMに慎吾は微笑む。
「どうして私が人の喉笛を裂くことを研究したり、泥棒を追い掛け回したりする男と結婚するとお思いになるの?」
 間髪おかずに茗は告げる。
「ポーラ・パリスかよ」
「あなたこそ、一体何回このやり取りをすれば気がすむの? それこそ謎だわ」
 やれやれ、と茗は首を横に振った。
「受けてくれるまで」
「本気?」
「さぁ、どうだろう」
 そして、慎吾は意味深に微笑んだ。
「それが一番の謎かもね」
 茗も同じように微笑んだ。
「いつか解き明かしてね、私の探偵さん?」


世界最後の謎