顔を合わせていない記録、只今24日と記録更新中。もうすぐで一ヶ月ですね。 手帳を見てため息をつく。 そりゃ、厳密に言えば何度か顔は合わせたけど、恋人同士として会ったのはない。仕事がらみとか、そんなのばっかりで。 ため息。 ごめんね、忙しいんだ、って悠々自適の探偵稼業を営んでいたんじゃないのかしら? なんで最近になって勤労意欲が沸いちゃってるの? 彼の勤労意欲のなさに常日頃嘆いていたくせに、現金なことを言う自分に頭の片隅で呆れる。 だけど、24日も会わないなんて! それでいて、友達との飲み会にはちゃっかり顔を出しているんだから始末に終えない。私よりもその人たちの方がいいの? なんて小娘みたいな台詞を吐くつもりはないけれども、この24日の間に3回も飲み会に行かれてしまうと、そうも言いたくなってくる。 飲み会に行く時間は作れて、私に会う時間は作れないわけ? 茗ちゃん茗ちゃんって金魚の糞みたいに人の後をつけまわしていたりするくせに。なによ。 メールの返事も返ってこない。あー、むしゃくしゃする。 記録をこれ以上のばすつもりかしら? それもいいんじゃない? 仕事からの帰り道、やっぱりなんの連絡もないケータイを、ばたん! と乱暴に閉じた。 もう知らないあんなやつ!! 「おかえりー」 なのにどういうわけか、家に帰ってみると、その連絡をよこさない音信不通の恋人が料理を作ってまっていたりする。意味がわからない。 「何してるの、シン?」 こめかみがひきつるのを感じながらいうと、 「ご飯作ってるのー」 見たまんまの返事。 「そうじゃなくて」 「最近茗ちゃんがかまってくれなくて寂しいから、ちょっと茗ちゃんが寂しくなるように相手をやめていてみましたー」 おたま片手にあっけらかんと言う。かまってくれなくて寂しいって30目前の男が言う台詞? 頭がくらくらする。 かちゃり、彼はガスを止めるとにやにやしながらこっちにきた。 「まぁ、珍しく仕事をしてたのも本当だけど、途中から茗ちゃん欠乏症による症状を押さえ込みながら、じらしてみたのです」 彼は本当に、いろいろな物事を楽しむ天才だ。有り得ない。 もしかしたら、これは嘘で本当にめちゃめちゃ仕事が忙しかったのかもしれないし、ありえないとは思うけれども別の女性とのデートにあけくれていたのかもしれない。これが本当だという理由はない。 けれども、彼の自信満々の顔をみていたら、その言い訳が余裕で信じられてしまう。最高の愉快犯だ。 あっけにとられている私の前で彼は楽しそうに笑った。 「茗ちゃん、寂しかった?」 答える代わりに抱きついた。 「んー、ごめんね?」 なんて優しく頭を撫でてくる。 「怒ってる?」 返事の代わりに私は彼の顔をしたから覗き込む。笑顔を作る。 彼が嬉しそうに顔をほころばせる。 「会えてよかった、寂しかった」 私はそういうと、少しだけ背伸びをする。それに気づいて彼の顔がゆっくりと近づいてきて、私は 「って、いうと思った?」 ぎりぎりのところで怒気を押し殺しながらそういうと、彼の唇に噛み付いた。 自分で作ったご飯がしみると泣きそうになっている彼を尻目に、おいしく料理をご馳走になる私。 「怒ってる?」 答えない。 「めいちゃーん」 彼の半泣きな言い方に、それが演技だとわかっていても思わず口がほころぶ。それを隠して食事を続ける。 彼だって、私が本気で怒っていたら速攻ここから追い出して、ご飯なんて食べないことをわかっている。それでいて、そんな泣き言を言ってみる。 まったく、なんて最高で最低で愛おしい愉快犯だ。 少し赤くなっている彼の唇を見て思った。
確執もすれ違いも
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