恋愛の最大の敵は仕事なんじゃないかと思う。

『ごめん、土曜日の予定無理そう』
「あー、まぁ、いいよ。仕事でしょ?」
『ごめんねー、日曜は?』
「日曜……ちょっとまって。あ、その日は俺がだめだ」
『……そう』
「……ごめん」

 そんな会話を一ヶ月に四回も繰り返したら、さすがに憂鬱になってくると思う。一ヶ月に四回ってことは、つまるところ、今月は一回も彼女に会っていないということだ。
 勿論、仕事がらみであったりはしているけれども、そういう色気の無いのはカウント外で。


 がちゃん
「ふっ」
 受話器を置くと、思わず自嘲気味に嗤う。
「……なぁ、どうしようか、キュー」
「ごんべいっ!」
 愛九官鳥に問い掛けてみる。
 どうでもいいが、ごんべいだなんて変な言葉一体誰が教えたんだ?少なくとも俺は教えていない。

 こうなることはわかっていた。
 お互いに仕事があって、それがとても大切で、手放したくないと思っているのはお互いに知っている。それを承知で今の関係を築いてきたのだから。
 お互いに手に入れるまで時間がかかった仕事だから、それをないがしろにして恋愛ごとに現を抜かそうとは思わない。
 そうすることは侮辱に値するとさえ思っている。相手にも、仕事にも。
「わかっては、いるんだけどなぁ」
 椅子に座りなおして、パソコンに向き直る。
 結局四回連続でデートの予定がキャンセルされたからといって、めそめそ泣いているわけにはいかない。
 依頼人は待ってはくれないし、そんなことで仕事に手を抜くのはプロとしてどうかと思うからだ。いや、それよりも、男としてそれはどうかと。


 恋愛の最大の敵は仕事だと思う。
 そして、俺は、残念ながら……
「敵わないよなぁ」
 なんだかんだいって、仕事をしている彼女が好きなんだし。恋敵だが、その恋敵が無くなれば彼女の魅力も減るわけであって……というか、仕事がなくなってしまったら彼女は生きていけないんじゃないかと、実はひそかに危惧している。それぐらい仕事に情熱を燃やしているから。
 色々な矛盾をかかえて、ため息をついた。

 まったく本当に、敵わない。


恋の敵