彼女は決して泣かない。
 ずっと一緒にいるけれども、僕は彼女が泣いたところを見たことが無い。いつも、どこか悠然とした笑みを浮かべているだけ。

 僕は彼女の陶器の肌に手をあてる。冷たい感触が心地よい。僕の手から熱を奪って、彼女の頬が少し温まる。

 いつもと同じポーズで立っている彼女に、僕は笑いかける。でも、彼女はいつもと同じ笑みを浮かべるだけで、瞳は僕を見ていない。

 彼女の髪を撫でる。
 彼女の人工毛の髪は、少し触り心地が悪くて、僕は彼女のそういうところは嫌いだったりする。

 彼女は決して泣かない。
 だって、彼女には涙腺がないから。
 僕は彼女の長いまつげを撫で、その下にあるガラス球の瞳に触れた。

 彼女は決して泣かない。
 今までも、これからも、ずっと、ずっと。

 だから、僕は彼女の頭を抱えて泣くのだ。
 こんなに僕は彼女を愛しているのに、彼女は僕を見ることさえしないことに、恋の涙を流すのだ。

 僕から落ちた涙は、彼女の頬を伝う。
 ああ、これで、彼女も泣いたのだと、そんなことを思って僕は嗤うのだ。

 愛している。
 そう呟いて、彼女の陶器の唇に口付けた。冷たい感触にまた涙した。


 僕は、人形に恋をした。