「小鳥遊検事、一体どういうつもりですか」
「どういうつもりも何も、私がここにいること、貴方に許可を取らなきゃいけないの? たまたま入ったレストランで相席を頼まれて、その相手がたまたま知り合いだったからってそんなに怒らなくてもいいじゃない」
 爪を気にしながらも、小鳥遊麗華検事はそう言う。
 俺はこの人が苦手というか、むしろ嫌いだ。どことなく、爬虫類を思わせるから。俺、蛇嫌いだし。
 言い争いをしても無駄だと思って、ため息をつきながらパスタを食べる。
 せっかく、非番の日なのに何が悲しくてこの人の前で昼飯を食べてるんだろう、俺。
「……貴方、硯さんとはその後どうなの?」
 自分のグラタンが来ないからか、暇を持て余しているようで小鳥遊検事はそういう。
「……どうもこうもありませんよ」
 嫌がらせかこいつ。
「ああ、相変わらず歯牙にもかけられてないんだ」
 五月蝿い、黙れ。
「貴方も厄介なのに惚れたわよねぇ。っていうか、彼女もてるのに……ああ、私の方が勿論もてるけど」
 そうかい。
「趣味悪いわよねぇ。あんな、何考えているのかわからない探偵よりも、貴方の方がまだいいと思うけど」
 それはどうも。まぁ、悪い気はしない。
 実はいい奴かもと少し思う。
「……どっちも、顔はいまいちだけどねぇ」
 前言撤回。
「でも、貴方の最大の敵はあの探偵じゃないわねまぁ、あれはあれで厄介だけど、色々と」
 苦虫を噛み潰したような顔をする小鳥遊検事。
 何かあったのか? まぁ、渋谷は人を敵に回すのが趣味みたいなやつだし。
「貴方の最大の敵は」
 そこで小鳥遊検事は言葉をきり、こっちをじっとみてくる。俺も思わず、動きを止めて小鳥遊検事をみる。
「“仕事”よ」
 ああ、それは、確かに。思わず頷く。
 硯さんにとって一番大切なものは、間違いなく仕事だろ。
 ため息。勝てるわけが無い。
「貴方も大変ね」
 そういって、やっときたグラタンを食べ始める。
 それよりもあんたはどうなんだと聞いてみたい衝動にかられる。もう33歳なんだし。でも怖いから聞かないで、黙ってグラスの水を飲みほす。
「まぁ、わかっていたことだし」
 そういって自分の分の伝票をとって立ち上がる。
「大体、渋谷にならともかく、仕事に嫉妬してもしょうがないだろう」
「そうね、女々しいだけだわ」
 俺は肩をすくめると、
「それじゃぁ、お先に」
 そう言って席を離れようとして、
「笹倉さん」
「?」
「時には見切りをつけることも大切よ? 子どもの嫉妬は可愛いけれども、大人のそれは、男も女も見苦しいだけだわ」
 小鳥遊検事はそういって微笑んだ。ああ、やっぱり、少しはいい奴なのかもしれないと思う。
「出来たら苦労しないけど、まぁ忠告として受け取っておく」
 俺も微笑んでそういうと、今度こそその場を立ち去った。


 嫉妬心が惨めなものだというのには、大体のところで賛成だ。
 ドアをあけ、少し暑い外へ足を踏み出し、空を仰ぎ、確かに嫉妬を隠し切れないでいる、あいつと彼女の仕事に対して、少しばかりの敵意を持ちながら歩き始めた。


嫉妬心