ごめんなさい、と電話の向こうで彼女は泣いていた。
 私には、貴方とこれ以上付き合うなんて無理だから、と。
 私には、貴方が何を言っているのかわからないの、と。
 ごめんなさい、
 ごめんなさい、
 ごめんなさい、
 ごめんな ぶちっ
 電話を切り、ついでに電話線まで抜いてしまう。

 彼女は電話の向こうで泣いていた。
 私には、貴方が何を言っているのかわからないの、と。
 貴方の言葉は、まるで理解できない、別の言語みたいなの、と。
 なるほど、そうなのかもしれない。

 僕はふんっと笑って、電話を見る。

 だけど、それはこっちの台詞だ。
 僕には彼女が何を言っているのかわからない。
 彼女が話しているのが日本語なのはかろうじて理解できるが、それだけで、彼女の言葉を僕は解読しなければならない。
 まるで、それは、鏡言葉。

 僕はふんっともう一度鼻で笑う。

 その証拠に、僕にはどうして彼女があんなに電話の向こうで謝っていたのかが理解できない。
 わけがわからない。
 それに何の意味があるのか、わからない。

 そうとも、だからこれ以上彼女といることに意味は無い。
 意味は無い、
 意味は無い、
 意味は……
 
 だから、僕は、
「泣いてなんかいないさ」
 目元を軽くこすり、そう言って笑う。

 電話線を抜いたから、電話は何もしゃべらない