私は、難しい人に恋をした。
 難攻不落の男。
 何故ならば、彼は恋愛に対して興味を抱いていない。
 そんなことにまるで興味が無いかのように、彼は全身で、そんなもの必要ないという。
 そんなものまやかしだとでもいいたげに恋愛を、否定する。

 そもそも、彼にとって私は大勢の中の一人にしか過ぎないのだろう。
 もしかしたら、風景と同じなのかも。
 私のことなど、彼は気にしていないのだろう。
 こんなに私が彼のこと思っているのに。
 彼は絶対に私を見ることは無い。
 私に気付かない。
 私は、こんなにも彼を見ているのに。

 だけど、古来から言うように、実現不可能な愛ほど燃えるものは無い。
 私は、彼をゲットする。
 絶対に。

 私はそう思いながらじっと彼を見た。
 彼はこちらに気付くと、

「ききっ」
 と鳴いた。

「……可愛い」
 私は彼を見て呟き、そして、私の隣にいた、私の人間の恋人はふっとため息をついた。
「猿に負ける、俺」
 彼がぼそりと呟くのなんて気にせずに、私はいつもどおりペットショップの入り口にいる猿をいつまでも眺めていた。

 難攻不落の男はききっともう一度鳴き、私から視線を逸らす。
 桁のおかしな値札が、彼と私の距離を感じさせた。