「騙しているんですか?」
「冗談だろう。一国の姫を相手に結婚詐欺を働こう何て考えは、流石の俺でもおきやしないさ。リスクが大きすぎるからな」
 そういって、町外れに住む詐欺師は笑った。
 彼に夢中になっている姫君の従者はそれをきいてどうだか、と肩をすくめた。
「それにしては貴方からなんのアクションもありませんからね、姫様のことに関して」
「ソレは難しい問題だな。彼女のことは本気で好きだけれども、一国の主とかそういうのは俺には無理だし、面倒だし」
「……まぁ、貴方がそうだから、ある意味、姫様が貴方のところへ通うのを許せるんですけど。権力狙いでないことだけは確かですから」
「だろう? ……権力狙いの奴はくそ喰らえ」
「言葉は乱暴ですが、僕も大体同じ考えですよ。権力だけで彼女へ近づく人間はいなくなればいい」
「……なぁ、いつも思うんだが」
 詐欺師は腕を組んで従者を見る。
「あんたもしかして、あいつのこと」
「それはありえません」
 全部言う前に即答された。
「まだ質問事項に達していないが?」
「姫様のことを好きではないか、ということでしょう?」
「まぁな」
「でしたら答えはNO,です。勿論、依頼主として、保護対象として、若しくは妹に向けるような感情では好きですが、間違っても恋愛感情ではない。いいませんでしたっけ? 僕には恋人がいるんですが」
「いるのかっ!?」
「なんですか、その露骨に驚いた言い方は。失礼な」
「いや、今のは結構マジで驚いた。誰だ? 俺の知っている奴か?」
「キャナル・A・ハワード」
「侍女の? あの肝っ玉の強いねーちゃん?」
「ええ」
「……意外だなぁ」
「意外でもなんでもいいんですけど。話がずれています。ともかく、僕としては姫様のことを思うのでしたらもう少し何かアクションを起こしていただきたいのです」
「アクション、ねぇ」
「いきなり仕事を変えろとか、王様にかけあえとかはいいませんから、せめてこんな町外れじゃなくてもう少し姫様が通いやすい場所に引っ越してください」
 そういって従者はソファーで眠る噂の姫君を見る。
「いくら活発な方とはいえ、結局は箱入りのお姫様なんですから長時間自分の足であるけば、僕らよりも疲れるに決まっています」
「お前、今遠まわしに馬鹿にしてなかったか?」
「気のせいです」
「そうか? ……まぁ、考えておく」
「それとも、彼女が遠くから通ってきてくれることで愛を再確認してるとか?」
「そう言う柄に見えるか、俺が?」
「見えるから聞いているんですが」
「……まあ、なきにしもあらずだが……。時々、こんな恋愛をしていて俺はともかくあいつにとってプラスになるのか悩むときがあってな」
「何を今更」
 あきれたように従者が言う。
「そんなこといって、今更姫様から離れられるんですか?」
「……それはまぁ、無理なんだが」
「でしたら……」
 と、話がまた堂堂巡りになりかけたところで、
「うー、何の話をしているの?」
 噂の姫君が眼を覚ます。
「気にするな、なんでもない」
「なんでもありませんよ」
 詐欺師と従者がそういって、姫君はのけ者にされたと少し頬を膨らませた。