「シュナイダーさん」
 自室に戻ったアリスと別れたあと、アリスに言ったとおりに銀次はシュナイダーに声をかけた。
「なにかお手伝いすることはありませんか? お嬢様、今日はおでかけにならないらしいので」
 そうなると、運転手の自分の仕事はない。車の整備はこの前やったばっかりだし。
「寝ていたらいかがですか?」
 シュナイダーはさらり、と答えた。
「……お嬢様に何か言われました?」
 軽く片眉をあげて問うと、初老の執事長はしかめっ面を作って答えた。
「銀次君が露骨に具合悪そうなのに頑にそれを認めようとしないから、どうにかしといて、と言われました。……顔色、悪いですよ」
 しかめっ面から心配そうに歪められた顔に苦笑する。
「でもまあ、平気ですよ」
「見る者に心配をかけている状態は、決して平気な状態とは言わないんですよ。お嬢様にまで心配かけて。もしものことがあったら、どうするおつもりなんですか?」
 淡々と言われた正論に、返す言葉がない。
「それは、まあ」
「いつでも休めるわけではないんです。休める時は素直に休んでおきなさい」
 さらに畳み掛けられ、しぶしぶ頷いた。
「もしも、お嬢様がおでかけになる時は、遠慮なく声をかけてくださいね」
 それでも一応主張しておくと、
「はいはい、わかりましたから。さっさと自室に戻る」
 軽くあしらわれた。
 なんとなく釈然としないものを感じながら、自室に戻る。
 体調が悪いことは事実なのだから。
 自分にあてがわれた部屋に戻ると、ベッドの上にそのまま倒れ込んだ。
 しまった、着替えないとスーツに皺がつく。それが見つかったら、またシュナイダーに怒られる。そうは思ったものの、一度休んでしまうともう、起き上がる気持ちが湧かない。
 緊張は一度軽く緩むと、一気に全てが弛緩する。
 それと同時に、耐えていた体の痛みが一気に押し寄せて来た。
 額を枕に押し付け、瞳を閉じることで痛みに耐える。
 内部から鈍く続く痛み。
 体内を何者かに喰われるような感覚。
 ような、ではない。事実そのとおりなのだ。
 最初の頃は腹部だけだった痛みが、最近では胸の辺りにまで来ている。そのことにぞっとする。
 あとどれぐらい、残されているんだろうか。
 痛みのある胸の辺りを、シャツの上から掴んだ。ぐっと爪を立てて。
「ひっこんでろっ」
 吐きすてるように告げる。自分の体内に居る、Xに。
 特別に、メタリッカーという名前を与えられている、Xに。