ファミレスを出てしばらく歩いたところで、 「ホテル、どっちかわかるか」 隆二は立ち止まり、真緒に声をかけた。 「待って、ナビ起動する」 隆二に荷物を押し付けると、スマホを取り出す。 他のことは不器用なのに、スマホの操作だけは片手でも異様にうまくなっている。好きなものこそ上手なれとかいうもんなーと、ぼんやりと思う。使い方が合ってるのかは知らんが。 真緒は左手でスマホをいじりながら、 「っていうか、道わかんないんだったら、円さんに送って貰えばよかったのに」 「あー」 思わず濁してしまった返事に、 「車、まだ苦手なの?」 呆れたように言われた。見透かされている。 「なんかなー。昔轢かれたことあるからかなー。落ち着かないんだよ」 「昔って、本当大昔でしょ」 ホテルあっちみたい、と進み始める。 「それに、あの車、絶対高いじゃんか、落ち着かないよな」 「それは、ちょっとわかる」 こくこくと頷かれた。 「円さん、変なところでお金持ち感強くて、たまに引く。今日履いてた靴だって、十万とかするやつだよ」 「は? あのバカみたいにヒール高い靴?」 「そう」 「……あの人、バカなのか?」 ヒールの高さもバカだと思ったが、値段もバカだった。どうして、そんな靴で、走ったり跳んだり、斬りつけたりできるのか。 「もっと報酬ふっかけときゃよかった」 まあ、護衛と言いつつ全然仕事してないから、今の金額でもぼったくってるとは思うが。 二人で並んで歩きながら、 「今日は何してたんだ?」 「買い物ー。お洋服、買っちゃった」 それね、と隆二に持たせた袋に視線をやる。 「楽しかったか?」 「うん!」 「そうか」 ならいい。 「ね、怪我してない? 本当に大丈夫?」 「してねーって。見ればわかるだろ」 「……まあね」 どこか不満そうに真緒はつぶやいた。 「なんで納得してないわけ?」 「隆二はそういう点ではちょっと信用できない。あたしにバレなきゃ怪我してもいいって思ってるよね?」 「……思ってねーよ」 いや、ちょっと思ってるけど。 「気をつけてね、本当に」 「ああ、わかってるってば」 まだ何か続きそうな真緒の言葉を、その頭をぐしゃぐしゃっとかき混ぜることで遮る。 「ちょっとー!」 「ほら、さっさと行こう」 なんとなく誤魔化しながら、少し早足で歩きだした。 自分の怪我なんて、取るに足らない瑣末だ。そうは思うけれども、そう言ったらこの同居人は怒るだろう。だから、今日のところは内緒にしておこう。 |