夜は、あまり好きではない。


 嫌な夢を見る、怖い夢を見る。
 見たくも無いものが活性化する。
 夜は好きではない。


 カーテンを乱暴に閉める。


 夜は、寝なければならないから、嫌い。
 時々、寝ることが怖い時がある。
 眠ってしまえば、無条件で次、目覚めたときは翌日になっている。
 なんとか無事に今日は過ごせたけれども、明日も無事に過ごせるなんていう確証はない。
 寝なければ、例え日付が変わっていても今日が続いていると錯覚できる。
 夜は嫌い。
 明日が怖いから。
 明日を連れてくる、夜は嫌い。


 ぼんやりとテレビを見ながら、紅茶のカップを両手でつかむ。


 明けない夜は無いと言う。だから、頑張れ、と人は言う。
 何を言うのだろうか。
 もし、明けない夜が存在したら、あたしにとってこれ以上嬉しいことは無い。
 夜が明けないということは、永遠に明日が来ないということで、明日が来ないっていうことはもうこれ以上頑張る必要性がないってことで。
 そうなったら、あたしは夜を好きになれるのに。


 眠らなくて済む。
 眠らなければ怖い夢も嫌な夢も見ることは無い。
 明日が来ることも無い。
 どんなに後ろ向きだと罵られようが、あたしはやっぱり、明日が来ることが怖いのだ。
 明日が、なんとか無事に過ごせる確証なんてどこにもないんだから。


 紅茶を飲み込む。
 少し、泣きそうになる。


 明日なんか来なければいい。
 もう、これ以上、頑張りたくない。


 ケータイを取り出して、夕方に来たメールを見る。
 明日は土曜日だから、でかける約束。
 彼には会いたい。
 彼のことは好きだから。
 でも、だからこそ、明日は来ないで欲しい。
 明日も、無事に彼を傷つけることなく終わるとは思えない。
 明日こそ、あたしは何かをしてしまうかもしれない。
 明日こそ、あたしは彼に別れを告げなければならない。
 明日は、


 ケータイをソファーに投げ出す。


 明日は、怖い。
 でも、明日から逃げ出せないあたしもいる。
 彼が大切だから、明日が怖くて、彼が大切だから、明日に来て欲しい。
 相反した感情に、押しつぶされそうになる。


 膝を抱えて、夜が明けないことを願った。
 明日さえ来なければ、あたしはもう悩むことは無い。
 頑張る必要性も無い。


「だれか、たすけて」


 助けなんて来ないこと、本当は知っているけど。
 助けなんて求めてはいけないこと、知っているけど。


「おねがい……」


 膝に、顔を埋めた。


 夜は嫌い。
 でも、朝よりは、ましなのだから。


 お願い、夜よ、どうか、
 明けないで……