「「おはようございますっ」
 低く怒鳴りつけるようにして挨拶しながら入ってきた部下に、彼は訝しげな顔をした。
「おはよう。珍しく朝から不機嫌じゃないか。どうした?」
「ブロンドジョーク」
「は?」
 彼は部下の金色の髪を見て首をかしげる。
「頭の回転のとろいブロンド娘を使って、人を散々こけにする不愉快でたまらないものよ。髪の色で人をひとまとめにするなっつーのっ!」
 ばんっと、持っていた鞄を机の上に叩きつける。書類が少し舞い上がりかけた。
「……誰?」
「ブランセット」
「ブランセットなら、悪気があったわけじゃないだろう」
「知ってるわよっ! あの子が強かなくせにどっか抜けている子なことぐらい」
 それも酷い言いようだよなぁと思うが、彼は何も言わなかった。
「あの子が赤頭きんなことぐらい、わかっているわよ」
 そう言う。それを聞いて彼は肩をすくめた。
「そうだな」
 ブランセットが赤頭きんと呼ばれる理由は、正装が義務付けられているとき以外は何故か褐色の頭にかぶっている赤頭きんだけではなく、祖母に化けた狼に気付かない“赤頭きんちゃん”のようにどこか抜けたようなところがあるからだ。
 ただ、それでいてその赤頭きんちゃんは狼を撃ち殺すが。
「……以前、犯人を追い詰めて、こう“Hold UP! ”と叫んだところで“あ、弾入れてくるの忘れちゃった”とか言われたときは、流石に張り倒したくなった」
「…………それは初耳。その後どうしたの?」
「どうしたと思う?」
「……あの子、もしかして、投げた? その拳銃を?」
「ご名答」
 彼の言葉に、部下は額に手を当てて嘆息した。
「やりそー」
「それで捕まえられるから凄いよな。まぁ、正直もう二度とブランセットとは組みたくないな。そういう意味でエラは賞賛に値するよ」
「そんなこと言ったって」
 部下は眉根を寄せて言う。
「シンデレラと赤頭きんなんて、似たようなものじゃない、あの二人!」
「……まあ、な」
 シンデレラと渾名される、赤頭きんの相棒を思いながら言う。夢見がちなお姫様。ただ、彼女は目的のためには手段を問わない。王子様に見つけてもらうためなら例え火の中水の中、凶悪犯の中。
「まぁ、あのお伽噺コンビのことなんて、気にしていたらきりが無いぞ?」
「……まぁ、ね」
「それに」
 彼は部下の金色の髪を一房つまみ、微笑む。
「俺はノエルの髪の色、好きだよ。綺麗で。こんな黒よりも、ずっと」
 そういって自分の髪もつまんでおどけてみせる。
「エル……」


「何してるんですか?」
 低い声色に二人は慌ててそちらをみる。ドアのところで、もう一人の部下が不愉快そうな顔をして立っていた。
「朝っぱらから惚気るのやめてもらえますか? 不愉快なんで」
 二人は一度顔を見合わせ
「おはよう、ソル」
 二匹の狸は声を揃えてそういって笑い、
「……おはようございます」
 もう一人の部下も諦めたようにそういって、自分の席についた。

 そしてまた、一日が始まる。