「とりあえず、あたしはワンピとボレロ」 指を折り、数えながら沙耶が宣言した。 「……あんた、一体いくつワンピ買うつもり? この間も買ってたし、今日も着てるし」 呆れた調子で円はいい、彼女の黒いワンピースを見る。 「いいじゃん。円姉は?」 「パンプス〜。ねぇ、あれ可愛くない?」 「どれ?」 「あのピアス」 そう言って円は髑髏と薔薇をあしらったピアスを指さす。 沙耶はそれをじっと凝視したあと呟いた。 「……円姉の趣味ってわかんない」 「私もあんたの趣味わかんないわよ」 フェミニンとマスキュリン。まったく対照的な服装をした二人が、お互いの服をしばらくじっとみる。 「……とりあえず、ワンピとボレロ。ワンピはちょっとくすんだピンクで、ボレロは黒くてレースついてるやつ」 しばらくの沈黙の後、沙耶が再び宣言した。 「私はパンプス。あと、シャツが欲しい」 円も宣言を返した。 「具体的には?」 「春っぽければ」 「具体的じゃないし」 沙耶が呆れて笑う。 「……あれ、沙耶好きそうじゃない?」 円が右横のマネキンが着ているスカートを指さす。 「あ! さすが、好き好き!」 沙耶がぱたぱたと走っていく。その後をゆったりと円はついていく。 白地に林檎と苺がプリントされたスカート。 「可愛い」 沙耶が嬉しそうに言う。 「ワンピもあるわよ?」 店内に視線を配っていた円が告げる。 「あ、ホントだ! しかもワンピの方が安い」 「……300円だけだし」 ぼそりと円が呟く。 「よかったらご試着もどうぞ。それは人気があって」 何時の間にか後ろにいた店員が告げる。 「用があったら声かけるんで」 円はちらりとそれを一瞥すると、それだけ告げる。店員がちょっと固まった。 「ご、ごゆっくりどうぞー」 かろうじてそれだけ告げると店員がすごすごと退散する。 「円姉」 沙耶が小声でたしなめる。 「いいじゃない。趣味悪いですねーとか言ってないんだから」 以前買い物中に店員のセンスにけちをつけた円を思い返しながら、沙耶はため息をついた。まぁ、まだマシだけど。 「買うの?」 「どうしようかなー」 姿見の前で、ワンピースを胸にあてながら沙耶は悩む。 「とりあえず、龍一君なら何着てっても褒めてくれるわよ」 「それはそうなんだけどー」 いいかけて、 「ちょっとまって、なんで龍一が出てくるの?」 半眼になって円を睨む。 「だって今度のデートの服なんでしょ?」 「デートじゃないし」 ぶすっと膨れる沙耶に少し円が笑う。 むすっとしながら沙耶は視線をずらし、 「円姉」 「ん?」 手を伸ばし、一つの商品を手に取った。 「シャツ、あったよ?」 同じ柄のシャツ。 「……お揃い?」 「いいかもね」 二人はにやりと笑いあった。 それは給料日後の日曜日のお話。 |