夜更けには降るかもしれない

『ゆーき、早くふーらーなーいーかーなぁー』
 朝からずぅっとそう言いながら、マオが窓際で外を眺めている。天気予報では今日の夜中から雪になるらしい。
「犬は喜び庭かけまわり、猫はコタツで丸くなるんじゃなかったのか? なんで、そこだけ犬なんだよ、お前」
『うち、コタツないじゃん』
「そこかよ」
 朝からずぅっとこの調子で騒いでいる。もう15時だっていうのに。
『ゆーきー、雪雪雪』
 まったくもって何が楽しいのかわからない。寒いのに。いや、別に寒いとかそういう感覚ないから寒くはないんだけど。気分的に。
『隆二は雪楽しくないの?』
「ねぇよ」
 こっちはお前の何倍、何十倍も雪を見てきたんだ。いまさら楽しいわけがない。

 雪、雪。
 正直、雪が降ると思い出すのは茜のことだ。あの場所は、雪がたくさん降った。雪がふって気温が下がって、茜がしょっちゅう熱を出していた。
 雪。
 あまり、いい思いではない。雪を見ると茜のことを思い出す。
 雪。
 茜とすごしていたあのときは、雪をみることが多かった。今よりも雪が降ることが多かったし、寒い地方だったし。

『無感動症〜』
 マオがつまらなさそうに唇を尖らした。
 ふんっと鼻で笑って見せると、ますますマオは眉をひそめた。
 雪を見ると茜を思い出す、そんなこと言ったらマオは一体なんていうんだろう。きっと、いつもみたいに怒ったような顔をして女々しいなんていいながら、またあの泣きそうな顔をするのだろう。
 それは見たくない。
 だからつとめて雪に興味がないようなふりをする。
 マオはまた、窓の外に視線を移した。
『早く降らないかなぁ』
 楽しそうに呟いた。

 夜更けには降るかもしれない。
 それまでに眠りにつこうと思った。
up date=2004
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