「初恋はいつだったか?」
 放課後、いつものIndian summerで。
「また、しょーもないこと聞くのね、春ちゃん」
 ずずっとアイスティーを啜りながら上総が言う。
「いや、この間来ていた子たちがね、そんな話をしていたから」
「ふーん、主は?」
「……小学生のときに、エラリー・クィーンに」
「ぶっ」
 アイスティーを噴出しそうになり慌てて口元を抑え、上総は亜紀を見た。
「え、えらりーくぃーん??」
「うん」
「……それはまた」
 隣で黙ってそれを聞いてた三浦もなんともいえない顔で呟いた。
「渋いなぁ」
「というか、ちょっと痛いわ、それ」
「うるさいっ」
 言いたい放題言われて、亜紀は眉根を寄せる。
「三浦少年は?」
 小春に尋ねられて、三浦は首をかしげる。
「よく覚えてないんですよね。というか、子供の感情って恋愛って言い切るには難しいじゃないですか」
「ああ、それは確かに。」
「魔女さんは?」
 聞かれて上総は、
「え、あたし? あたしは……」
 そこで言葉を切る。
 顔が青ざめる。
「……もしもーし?」
 亜紀が声をかける。
 が、口元に手をやったまま、青い顔して、
「……違う」
「はい?」
「違う違う違う、断じてありえない、あれは初恋じゃない。恋じゃない、恋じゃないんだっ!!」
 そう叫ぶと、鞄を持って店を飛び出した。
「?」
 と思うと、ばっと戻ってきて、テーブルの上に、280円(アイスティー代)を置いて、もう一度走って出て行った。
「……何、あれ?」
「さぁ?」
「不思議な子だよねぇ」
 残された三人は顔を見合わせた。



 思い出したのだ。
 小さかったころ(多分、幼稚園ぐらいのとき)「あたし、おおきくなったら長のおよめさんになるー」とか言ってたことを。それも、武蔵にも相模にも言っていたことを。
 何をトチ狂ったことをいっていたのだろう。
「違う、アレは違う、あれは……」
 ぶつぶついいながら、自転車のカギをあけて、飛び乗る。
 そのまま、全速力で漕ぎ出した。
 あれはきっと、小さな子供が「おとうさんのおよめさんになる」って言うのと同じ事だ。だって、あの二人はあたしにとっては一応親代わりだし、小さいころは、魔女のことなんて全然知らなかったころは、本当に信頼していたし。

 そこまで考えていたら、道路の反対側に武蔵が居た。
 こっちに気付くと何時もの調子で片手をあげてきて、

 思考回路がスパーク。

 武蔵から逃げるように、ぐっと、ペダルに力をこめる。
「もういやぁぁぁ」
 幼い日の自分を嘆きながら上総は家へと向かって走った。


 初恋は実らないと言う。だからこそ、美しいとも言う。
 全然美しくなんか無い。むしろ、(あれが初恋だとしたら、だが)抹消したい過去である。半泣きになりながら上総は思った。


 家に帰ったらいつものように相模がいるかもなんてこと、考えもしなかった。
 合掌