んー、と小さくうなる。 目の前に並べられたジッポの数々に、正直ここなは圧倒されていた。 久慈から場所を聞いた店で、ジッポを選ぶ。こっそりプレゼントして京介を驚かせたい、と思って。 吸ってもいい、と言ってからも京介は換気扇の下で煙草を吸うという、徹底ぶりだ。別に構わないのに。それに、いつも安い百円ライターを使っているし。 本当に色々お世話になっているのだから、これぐらい。 しかし、 「弱った」 思ったよりもたくさんの種類があって、どれにしたらいいのかがわからない。 ドラゴンや骸骨はなんかゴツいし、かといってイルカは可愛過ぎるし、シンプルなのもセンスが問われるし。 あ、蛙とかある。全体的に緑で、上の部分に出っ張った目がついている。これでもいいかな。なんか意味わかんないけど、変わっていて。 と、ここなが血迷いかけたころ、 「おねーさん、いいのあった?」 店員に声をかけられた。 首を横に振る。 「おねーさんの?」 「プレゼント」 「カレシ?」 ここなはしばらく迷って、 「そんな感じ」 笑って答えた。 厳密に二人を表す言葉を、ここなは持っていない。 「ふーん、どんなのがお好み?」 「全然わからなくて」 そっかー、たとえばーと、店員が系統の違うものを何種類か並べる。 「んー」 それをゆっくりと見る。 イマイチぴんとこないなーと思っていると、視線がある一点で止まった。 「あ、これ? ペアなの」 ここなの視線を追って、店員が答える。 「へー」 二つ一組になっているようで、くっつけて置いてある。 単体で見るとなにか鳥がいるだけ。 「それ、フェニックスね。不死鳥」 店員が絶妙のタイミングで言う。 だけれども、二つをくっつけると不死鳥がハートのような形を描く。 「……これにしようかな」 お揃いのものが何か一つあると、嬉しいし。 それに、心中相手に不死鳥のジッポを贈るなんて、ナンセンスで素敵だ、と思う。 永遠に続くことがあればいいのに。 「これにします?」 「お願いします。こっちだけプレゼント包装してもらって」 「はいはーい」 はやく家に帰って渡したい、そう思うと、胸が弾んだ。 「ただいまー」 部屋に戻ったここなを迎えたのは、静寂だった。 「あれ、キョースケ?」 のんきそうな声を出しながらも、胸が騒ぐ。 慌てて靴を脱ぎ、家にあがる。 いなくなっていたら、どうしよう。 「キョースケ!」 名前を呼ぶ。 返事はない。 泣きそうになるのを堪える。 いつもは家にいて笑って迎えてくれるのに、どうしていないの? ふっと、ダイニングテーブルに視線を移すと、メモが一枚置かれていた。 心臓が跳ねる。 別れの挨拶だったら。 「やっ」 思わず口からもれた悲鳴に、慌てて口を抑える。 ゆっくりと手を伸ばし、メモに触れた段階で一度手をひっこめ、また手を伸ばし、それを持ち上げた。 おそるおそる、文面を読む。 「ココへ」 初めて見る、少し神経質そうな文字が並んでいた。 「商店街の人達のご飯食べに行く事になりました。急でごめん。 京介」 それを読み終わり、ここなは一つ、安堵の吐息をついた。 なんだ、出て行ったんじゃないのか。 それでもまだ、このまま帰って来ないんじゃないか、という不安もよぎる。 「キョースケ」 小さい声で名前を呼ぶ。 ジッポなんかよりもはやくケータイを買うべきだったな、と少し後悔した。そしたらまだ、安心出来た。繋がっていられるから。 これ、渡したかったのにな。 手の中の小箱を見る。 少し悩んで、それをテーブルの上に置いた。京介のメモを裏返し、ペンを握る。「キョースケにプレゼント」とだけ書いて、テーブルの上に並べておいた。 少ししたら仕事にいかなければ。 久しぶりの一人の部屋は、少し寒々しい。 |