ロー内恋愛ー26歳の男


第七章 幸福追求権は国民の権利です。

 慌ただしく、二年次のカリキュラムが終わった。レポートや発表を乗り越えて、期末テストも終えて、ついでにヒロ君と言っていた合同の飲み会も無事終わらせた。
 今はただ、単位がとれていることを神様に祈っている。
 あと、来年、ヒロ君と同じゼミになれることを。
 一年間、早かったなー。特に、なにもしてないけれども。
 そんなことを思いながら、あたしは自習室をでてすぐ、エレベーターホールに立っている。
 今日はバレンタインだ。
 宣言通り、ガトーショコラを作ってきて、サクちゃんや治君、郁さんに、ついでだから池田君にも配ってきたところだ。
 そうして、あたしが今待っているのは、
「ごめんねー」
 ヒロ君。
「ううん。ごめん、呼び出して」
 あたしは微笑む。
「これ、ガトーショコラなんだけど、よかったら」
 まだ告白するつもりなんかないから、ただそれだけを言って渡す。
「あー、ありがとう。そっかー、バレンタインかー」
 ヒロ君はなんでもないように受け取って、
「義理でも嬉しい」
 なんのためらいもなくそう言うと、優しく微笑んだ。

 なんで! 
 確かに告白するつもりなんかないから、義理だと思ってもらってもいいんだけど、なんで!
 クリスマスにサクちゃんが作ったクッキーは、あんなに簡易包装だったのに、俺以外ももらったよね? 特別なわけじゃないよね? とか確認しまくってたいくせに、なんで!
 こんなピンクの包装紙で、超リボンとかつけて、明らかに皆のより大きいのに! なんで義理一択なのっ! どうして義理だって決めつけるの? ちょっとは、「あれ? 本命?」とかからかってくれてもいいじゃん!!
 それはあれ? サクちゃんから本命だったら嬉しいけど、あたしからはいらなーいってこと? どういうことよ!
 などと思いながらも、
「うん、いつもありがとう」
 そんな風にいいながら微笑む自分が居る。昔のあたしなら、迷わずに本命に決まっているじゃん! って言ったのに。
 傷つくことを恐れるようになったのは成長の証か、それともただの退化か。
「うん、ありがとう。一カ月後、なんかお返しするねー」
 ヒロ君は笑って、去って行く。
 違う、それは本命! 超本命!!
 でも、あたしには見送ることしかできない。
 泣きそうになりながら、今のあたしができることはただ一つ。
「サクちゃーん!」
 恐らく自習室にいるであろう、彼女に報告しに行くことだけ。

 突然あらわれたあたしをなだめて、話を聞いてくれるサクちゃんには本当に感謝してる。どうか、サクちゃんが検事になっても仲良くしてね。あたしが落ちこぼれて、合格出来なくて、ただのニートになっても仲良くしてね。
「うーん、じゃあ、とりあえず次は誕生日だね」
 3月2日。それはヒロ君の誕生日。
「うん、がんばる!」
 よっし、と気合いを入れる。そんなことしている場合じゃないんじゃね? とも思うけど。恋は勉強には替えられないのだ。
 あたしはあたしの幸せのために、ただ邁進して行くのだ。

 3月2日、雛祭りの一日前。26歳のヒロくんが、27歳になる。